取り組みたい社会課題

取り組みたい社会課題

スポーツの持つ本来の価値を伝えたい

私たちは、スポーツは楽しいものであり、子どもたちを人間的に成長させ、未来を明るく照らす力があると信じています。

しかしながら、日本のユーススポーツには依然として勝利至上主義が根強く残り、指導者による言葉の暴力やハラスメントは後を絶ちません。

監督が怒ってはいけない大会®」では、「子どもたちが楽しくのびのびとプレーすること」をコンセプトに、遊びの時間(スポーツ・レクリエーション)や指導者向けセミナーを当日のプログラムに織り交ぜ、スポーツの本来持つ意義や価値を伝えてきました。

そして現在、次のステップとして「つながるリーグ®」の設立・展開を進めています。

監督が怒ってはいけない大会®」は基本的に年に1回、1日ないし2日間のみのイベントですが、これを発展させ「リーグ」として継続的に試合の場を持つという企画です。

試合の場を提供するだけではなく、参加チームの指導者・保護者のみなさまと一緒に「ポジティブコーチング」の理念を共有するコミュニティーをつくっていくことを大きな目的としています。

このリーグをプラットフォームとして、参加チームとアライアンスを組み、指導者や保護者が互いに情報交換をしながらコーチングやペアレンティング(子育て)のあり方を一緒に学んでいけないか、という試みです。

この「つながるリーグ®」は、既にバレーボールでは2022年から始まっており、現在九州や中国地方を中心に70を超えるチームが参加、約1000人の子どもたちがプレーしています。

これを今回の八王子大会を皮切りに東京周辺へ、そしてサッカーやそれ以外のスポーツにも展開していくことを考えています。

なぜ今、スポーツなのか?

私たちは、今だからこそ、スポーツの価値を問い直したいと考えています。

ひとつめの理由は、VUCAの時代を迎え、過去の知識や経験が役に立たなくなりつつあり、教育の中身が変わりつつある点にあります。

なぜなら、スポーツは今後必要となるスキル習得のためにも非常に有効な手段だからです。

ふたつめの理由として、日本の子どもたちの幸福度の低いことが挙げられます。

スポーツは子どもたちの自己肯定感を向上させ、幸福感を増し、人間的にも成長させる効果を持ちます。

しかしながら、日本のユーススポーツでは、暴言や過度の叱責・罰走など旧態依然とした体質が残り、スポーツコーチングのありようは、欧米を中心とした先進国には大きな後れを取っていると言わざるを得ません。

ネガティブな指導は、子どもたちを幸せにし人間的に成長させるどころか、逆に子どもたちの自己肯定感や主体性、自ら考える力を奪ってしまうリスクを伴います。

次の表は我々の社会課題とその解決策をチャートにまとめたものです。

テクノロジーや世界情勢、気候の急激な変化などにより、物事の不確実性が高く将来の予測が困難な昨今の状態を指す。もともとアメリカの軍事用語だが、ビジネスの場で使用されるようになり、一般的にも聞くようになった。以下頭文字をとった造語。

・Volatility(変動性)

・Uncertainty(不確実性)

・Complexity(複雑性)

・Ambiguity(曖昧性)

*2 1人当たりのGDP

OECD加盟国38カ国中の順位、単位は購買力平価換算USドル使用

*3 世界幸福度ランキング

国連の「持続可能開発ソリューションネットワーク(SDSN)」が毎年世界幸福デーの3月20日に「世界幸福度報告」として発表している。

*4 先進国における子どもの幸福度

ユニセフによる2020年の調査。「精神的幸福度」「身体的健康」「スキル」の3分野から総合スコアを算出。各項目の日本の順位は以下の通り(38ヵ国中)であり、これらの総合点が20位となる。

VUCAの時代がやってきた

「VUCA」という言葉、聞いたことありますでしょうか?

ひとことで言うと、「先行きが不透明で、将来の予測が難しい状態」を意味します。

もともとは1990年代にできたアメリカの軍事用語でしたが、2010年代からはビジネス界でも使われるようになり、最近は一般的なシーンでも聞くようになりました。

これは、インターネットやAIなどのテクノロジーの進化やグローバル化による価値観の多様化、気候変動などによって、あらゆるものを取り巻く環境が複雑さを増したことで、未来の予測が困難になってきていることが背景にあります。

4つの言葉の頭文字をとってVUCAと呼んでいる

これまでの知識が役立たない?

VUCAの時代、変化が速く激しいことから、今までの常識が非常識になり、非常識が常識になると言われます。

例えば、この10~20年を振り返っても、様々な「新しい常識」が生まれました。

スマホの登場に始まり、LINEやインスタなどSNSによるコミュニケーションや情報収集、Zoomや在宅勤務、Amazon・楽天・メルカリでの買い物やUber Eatsといったデリバリー。

ビジネスパーソンの夏の服装や男性の育児休暇、喫煙所の減少、LGBTQへの考え方などなど、テクノロジー以外でも大きな変化がありました。

そして、次の10年はこれ以上の大きな変化が起きると言われています。

現金や新聞紙はなくなり、AIやロボットが多くの仕事をこなし、車は自動運転どころか空を飛んでいるかもしれません。

より国際化が進んで英語が共通語となり、メタバースの技術によって在宅勤務どころかショッピングやレジャー・旅行まで家にいながら体験できるかもしれません。

そのような中、大きく変りわつつあるのが「教育」です。

このように社会が大きく変わると、これまでの知識や経験が役に立たなくなるからです。

AI、自動運転、メタバースのイメージ図
AI、自動運転、メタバースの発展で、生活が大きく変わると言われる

変化に対応できる「考える力」が必要に

変化の激しいVUCA時代には、状況を理解し、自ら考え、決断し、実行していくという能力が重要になると言われます。

情報収集力、問題解決力、意思決定力、対応力、行動力といったスキルです。

周囲との協力も重要ですから、コミュニケーション力、リーダーシップ、協調性なども欠かせません。

これらは「21世紀型スキル」「ライフスキル」「非認知能力」などと呼ばれています。

ビジネススキル」は専門知識も含まれるので少し意味合いが変わりますが、前者同様に今後も重要性が高いと言えるでしょう。

北米や西欧の先進国では教育改革が進み、義務教育課程にて小学校低学年から、これらにフォーカスしたプログラムを組んでいます。

具体的には、次のような例が挙げられます。(国や地域によって異なります)

  • 小中学校では、テストの成績よりも「いかに学ぶことを楽しむか」「学ぶことの意味」「学習方法の学習」に重点が置かれている
  • テストの点ではなく、「どのようなスキルや価値観、人間性を持って社会に出ていくのか」を教育の目的とすることが明言されている →”Portrait of Leaner(学習者のあるべき姿)”という言葉が多用される
  • 多くの教科がグループディスカッションを中心に進められる(宿題もグループで取り組むケースあり)
  • 生徒同士のディベート(討論会)が多い
  • プロジェクトベースの科目として、「国語」と「社会」を廃止し両者が一体となった「Humanities*5」という授業を採用する学校が増えている
  • 「Humanities」の授業では、政党や選挙、模擬の国連総会開催、バーチャル株式購入などのカリキュラムがあり、母国語を学びながら世の中の仕組みを知る
  • 学校の成績もテストの重要度が低く、日々課題に取り組む姿勢が評価される
  • 高校受験・大学受験はなく、普段の学校の成績と課外活動(スポーツや芸術、アルバイトやボランティアなどの社会活動、趣味など取り組んだことに関するレポート)が重視される

(*5) 「Humanities」は「人間性」と訳せますが、人間の社会について学ぶ要素が強く、道徳とは異なります人文科学全般の中学生版で、歴史・政治・経済・国際関係・時事問題などの広いテーマを扱います。

世界に遅ればせながら、我が国でも文科省がこうした能力を「21世紀型スキル」と称し、「探究学習」をスタートさせました。

2022年には高校にて「総合的な探究の時間」が必修化され、今後小中学校へ展開されていくものと思われます。

認知能力と非認知能力
学力テストで測れる左側のスキルを認知能力、測りにくい右側のスキルを非認知能力と言い、先進国では非認知能力が重視されつつある。日本も「探究学習」が始まるなど変化が見られるが、まだ認知能力重視のカリキュラムとなっている。

日本の失われた30年

先述のように世界がものすごいスピードで変化しつつある中、日本はなかなか変われない社会だということが指摘されます。

失われた30年」という言葉がそれを端的に表しているのではないでしょうか。

「失われた30年」とは、1990年代のバブル崩壊以降、これまでの経済的な停滞を指す言葉です。

事実、1996年にOECD加盟国38ヵ国中5位だった1人当たりのGDPは、2022年には27位まで落ちました。

また、「失われた30年」という言葉には、経済的な面だけでなく、日本社会の閉塞感や疲弊感のようなものが見え隠れします。

精神的な豊かさや、最近頻繁に聞くようになったウェルビーイングという点でも、問題を抱えているのではということです。

例えば、国連が毎年発表している幸福度ランキングでは、2024年日本は51位と先進国中最低レベルです。

また、ユニセフが2020年に発表した子どもの幸福度ランキングでは、先進国38ヵ国中20位という結果でした。

これはまずまずの数字にも見えますが、精神的幸福度が38ヵ国中32位、社会スキルが40ヵ国中39位となっており、経済だけではなく、精神的な部分でも停滞していることがうかがえます。

この表の赤字と青字を見ると、日本の子どもたちは健康で学力も高いのに、精神的な幸福度と社会スキルが低いと、かなりいびつな結果になっていることがうかがえます。

日本の子どもの幸福度ランキング(ユニセフ 2020年)

スポーツの持つ力と価値

そのような中、子どもたちの自己肯定感を向上させ、人間的な成長をもたらすのに有効な方法のひとつが「スポーツ」です。

言うまでもなく、運動をすること自体が楽しいことですし、健康にもつながります。

しかし、それ以外にもスポーツには子どもたちの幸福感を高める要素がたくさん詰まっています。

例えば、上達して試合に勝つために練習に取り組むことで、工夫をしたり努力をしたりすることの価値を知ることができるでしょう。

そして、その成果が出れば、自己肯定感の向上にもつながるはずです。

たとえ試合に負けたとしても、悔しい気持ちが財産になるでしょうし、試合を振り返り敗因を考えることが次につながります。

その過程で、仲間やコーチとやりとりをすることも必要です。

自分の考えを整理して話す機会もあるでしょうし、時には意見が合わないこともあるかもしれません。

そうしたプロセスの中で、チームで協力することを覚え、コミュニケーション能力協調性リーダーシップなどが育まれることが期待できます。

まさにスポーツは、ある意味社会の縮図であり、今後の社会に出てからのレッスンができる場だと言えるでしょう。

依然として残る勝利至上主義

しかしながら、日本のスポーツ界では、依然として勝利至上主義が根強く残り、指導者による言葉の暴力ハラスメントは至るところで目にするのが現状です。

また、それ以外にも、罰走、補欠問題、オーバーユース(練習のしすぎによるケガ)、バーンアウト(燃え尽き症候群、その競技を辞めてしまう)、チーム内の上下関係・いじめなど、勝利至上主義による弊害は多く見られます。

ちなみに、世界的にも広く知られる人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が2020年の東京オリンピックを機に、日本のスポーツにおける子どもの虐待についてレポートを作成しています。

その名も「数えないほど叩かれて」。ちょっとショッキングなタイトルですが、日本のユーススポーツが海外からはそう見られているのが事実であり、同団体は日本政府に対しても子どもたちの人権にかかわる問題だとして、改善を要請しています。

こちらにリンクを貼っておきますので、ぜひご覧ください。

部活動と地域クラブの限界

これまで学校の部活動が日本のユーススポーツの発展に貢献してきたことは異論のないところでしょう。

しかし、少子化や教員の働き方改革を背景として、今の部活動は限界を迎えつつあります

文科省は2020年に部活動を地域クラブへ移行する方針を打ち出し、2023年から段階的に休日の活動は学校ではなく地域で行うことを発表しました。

しかしながら、一部を除いて地域への移行はほとんど進んでいないのが現状です。

問題点として、そのプロセスの具体的方法が示されていないなどの指摘がありますが、地域クラブ側も受け入れの為のキャパシティがないことも挙げられます。

スポーツクラブの運営には、その組織基盤として、子どもたちの物理的な安全(スポーツセーフティ)精神的な安全(セーフガーディング)の確保が必要です。

前者は、ケガや病気などの予防・対応についてで、雷や熱中症についても含まれます。

後者は、子どもの人権についてで、ハラスメントへの予防・対応のほか、先述の勝利至上主義的な指導方法についても含まれます。

これらがきちんと規則として定められ、明文化されていることが求められるわけですが、地域の街クラブはボランティア中心で活動しているチームも多く、そこまで整っているケースは珍しいでしょう。

そして、チームの経済的な問題指導者不足、あるいは指導者のコーチングの質をどう担保するのかといった問題も挙げられています。

リーグをプラットフォームに

これからの「考える力」を育む教育、日本の子どもたちの低い幸福度、そしてユーススポーツ界に依然として残る勝利至上主義的な考え方。

これらの課題の解決方法として、「ポジティブコーチングを理念とするリーグ」の設立・運営を考えています。

ただ単に試合の場を提供するだけではなく、スポーツの持つ本来の価値を取り戻し、子どもたちの人間的成長をみんなで考えていく、そんな理念を共有するコミュニティとして機能するリーグです。

リーグからは様々なコーチングや子育てに関する情報を、指導者・保護者のみなさまへ発信していく。

参加するチーム同士はアライアンスを組むような形で、情報交換をしながら組織基盤を強化していく。

そうすることで、リーグをプラットフォームとして、子どもたちを中心に、保護者や指導者たちがつながっていく。

そんな「つながるリーグ®」をバレーボールからサッカーへ、そして他のスポーツへと広げていきたいと考えています。

プラットフォームとしてのリーグ概念図